JR西日本が収支状況公表〝JR在来線6割が廃線水準〟 国交省、有識者会議で議論を〝加速〟

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国鉄闘争全国運動会報143号掲載記事(2022年4月13日発行)

JR西日本が、利用客が少ない在来線の区間別の収支を初めて公表した。日経新聞は「JR在来線6割が廃線水準」との衝撃的な見出しで解説記事を掲載した。

「第2の国鉄改革」

公表された対象区間は、鉄道の利用状況を示す1日の平均通過人員(輸送密度)が2000人未満の17路線30区間1360㎞。JR西日本の在来線の総営業㎞数の3割に及ぶ。報道によれば、ローカル線の採算悪化は、人口減少に加え新型コロナ感染拡大で観光客を含めた鉄道利用の低迷などが背景にある。

JR西日本は、2020年度の連結決算で2332億円の最終赤字を計上した。21年度も1165億円の最終赤字になる見通しだ。

すでにJR西日本は、経営難を理由に利用客の少ないローカル線について地元自治体に対して協議の申し入れを始めている。今回の収支状況の公表は、鉄道を今後も維持したいのであれば地元負担が必要とのメッセージだとされる。

JR西日本は「実状と課題を地域の皆様、自治体の皆様と共有させていただき、国の制度なども踏まえながら、今よりもご利用しやすく、街づくりに合わせた最適な交通体系を地域の皆様と共に模索し、実現していきたい」とコメントしている。

仮に、この30線区をすべて廃止すると、JR西日本の4分の1以上の路線がなくなり、中国地方の鉄道網の多くが失われる。出雲市以西の山陰線沿線の都市や、広島県の三次や島根県の津和野では鉄道路線がすべてなくなる。

国土交通省も2月14日に、経営環境の厳しい地方鉄道の改革案についての検討を始めた(鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会)。会合には、国交省と鉄道事業者の幹部や専門家が出席し非公開で行われている。

月1回ペースで会合が開催され、「機会費用」なる曖昧な経済学概念を持ち出す人物らが主導し、作為的な選択肢を示して、赤字路線の廃線やバスなど他の交通機関への転換を促す方針を夏までにまとめようとしている。

各所から〝第二の国鉄改革〟との危機感が出てくる状況で、国鉄分割・民営化前後と同様の廃線ラッシュが予想される状況になっている。

自治体負担を要求

ただ、輸送密度と赤字額は相関関係が必ずしも明確にあるわけではない。例えば、営業係数がダントツに悪い芸備線の東城~備後落合の区間の輸送密度は1日あたり1㌔11人で、1年間の運輸収入はわずか百万円しかないが年間の赤字額は2・6億円にとどまる。他の線区で利益が出ていることを考えれば芸備線の赤字額はさほど大きいわけではない。

むしろ赤字額が大きいのは山陰線出雲市〜浜田の34・5億円、紀勢線新宮〜白浜間28・6億円など、特急が走る線区だ。

そもそもJR西日本の赤字転落の1番大きな原因は、都市圏や新幹線の利用減であって、利用の少ないローカル線の赤字額はさして増えていないのだ。

JR西の長谷川社長は「輸送密度が2000人以下のところは鉄道の特性を生かせず非効率的だ。非効率な仕組みを民間企業として続けていくことが現実的に難しくなっている」と述べ、廃線を前提としないと言いながら、存続には公的負担が必須とのスタンスを明確に打ち出した。

地元では「高齢者は免許を返納して運転できない人も多く、移動手段として鉄道は重要。鉄道がなければ人が住めなくなってしまう」などの切実な声が上がっている。

こうした動きは、JR北海道が2015年11月に初めて路線収支を公表してから始まった。この段階で留萌本線の一部線区の廃止を決定。こうして線区ごとの収支の公表が、赤字路線廃止に向けた既定路線となっていった。JR四国も2019年3月に収支の公表を行った。

分割・民営化の破綻

赤字路線の廃止論議は何を意味するのか? 今回のことで国鉄分割・民営化の功罪をめぐる議論が活発化している。

当時、国鉄分割・民営化を推進した国鉄債権監理委員会の第二次提言は「国鉄経営の破綻の原因は経営責任が不明確な公社制度のもとで管理能力の限界を超えた巨大組織による全国一元運営を行ってきた点にある」として分割・民営化を正当化した。

こうした議論にも関わらず、他方では、どのような分割を実施しても、いわゆる「ドル箱路線」が少ない地域では赤字が積み上がることが予測され、強い懸念が示されていた。 

こうした反対論を押さえ込むために準備されたのが「経営安定化基金」だった。北海道や九州、四国などで発生する損失を基金の運用収益で埋め合わせるもので総額1兆円を超える資金が積み上げられた。当時の長期国債の平均利回りは7・3%もあり、基金の額は当時の金利を逆算した金額だった。しかし、実際にそのような収益が確保されたのは最初の数年だけで、バブル崩壊後の低金利政策で計画は破綻した。

JR各社は、国や自治体とは別の民間企業として不採算路線の維持を求められ、JR各社は、合理化(外注化)や廃線を行ってきたのである。

職場ではどうか?

他方で職場はどうか? JR北海道では早期退職者が10年連続で増加している。20年度の183人に続き21年度は198人が早期退職し、その約9割が30代以下だ。新規採用者数の8割に上る若手が退職し、会社の存続が成り立たなくなる事態に陥っている。2月の大雪でも除雪作業が追い付かず復旧までに大きな時間がかかった。

JR東日本でも3月16日の地震で東北新幹線は脱線し約1千カ所で損傷が見つかった。大規模な駅の再開発に莫大な金を投じておきながら、最も優先すべき安全対策は投げ捨てられていたのである。

人材の歯止めなき大量流出、技術継承の崩壊、廃線化の加速……、民営化とその後の外注化がもたらしたのは「鉄道崩壊」そのものだ。

この中でJR東日本は「すべての現業職の職名を廃止する」「乗務員と駅を融合させる」「車両センターはすべて首都圏本部・東北本部所属」といった極端な合理化攻撃に走っている。それは、民営化と外注化の破綻・崩壊を塗り隠すためだ。

この攻撃と対決する力は、職場と地域からの闘いを開始すること、そして闘う労働組合を取り戻すことだ。

「国鉄闘争全国運動」さんからの投稿です

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