リニア中央新幹線 27年開業の見通し立たず 事故・災害・環境あらゆる面で危険性

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国鉄闘争全国運動会報144号(2022年5月16日発行)

2027年に開業予定としていた品川―名古屋間のリニア中央新幹線は建設の見通しがまったく立たない状況になっている。南アルプスの掘削は「前人未到の領域」と言われるほど困難な工事が多く、昨年10月に死亡事故も発生している。

リニア中央新幹線は、東京から大阪に至る新幹線の整備計画路線。新幹線で初となる超電導リニアを採用し、最高設計速度は時速500㌔を超える。

2011年5月に整備計画が決定され、JR東海が営業・建設主体となっている。完成後は東京―名古屋間を最速40分で結ぶ計画だ。東京―大阪間の全線開通は最短で2037年の予定で、最速67分で結ぶ。

だが都市圏では土地買収も難しく、騒音対策も必要となる。トンネル工事は難工事でトラブルが続出し、現段階でも建設費の総額は9・6兆円に上る。最終的にどこまで膨らむかは予想つかない。

当初はJR東海が単独で資金を調達する計画だったが、安倍政権時代に、鉄道建設・運輸施設整備支援機構がJR東海に融資を可能とする法律が作られた。40年間の融資期間で最初の30年は返済を据え置き、無担保で3兆円を貸す破格の条件だ。安倍元首相と葛西敬之(現在はJR東海名誉会長)との〝蜜月関係〟〝アベ友優遇〟と言われるのも当然だ。

活断層を横切る

費用問題だけでなく工事そのものの技術的問題も多い。リニア中央新幹線の建設予定地はいくつもの活断層を横切る。特に品川―名古屋間は南アルプスの真下にトンネルを掘って直線で進む。その間のトンネル区間は86%に及ぶ。トンネル工事の残土、断層、地下水の問題など工事上の問題は極めて大きい。

リニア中央新幹線の東京―名古屋間286㌔のうち、東京・神奈川・愛知では延べ50㌔が地下40㍍での掘削工事となる。

2001年に「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度法)が施行された。地下40㍍以下は地上の地権者との用地交渉も補償金の支払いも必要ない。対象となっている地域は首都圏・中部圏・近畿圏の人口密集地である3地域。公共性のある事業(電気やガス、水道、鉄道や道路など)では大深度地下を無償で使用できることになった。

しかし地下40㍍のトンネルについての安全性の検証は誰も行ったことがない。すでに東京外郭環状道路(外環)のトンネル掘削による陥没事故が起きている。

近い将来、巨大地震が起きる可能性は否定できないが、停電時に緊急停止する仕組みはない。トンネル構造自体は比較的揺れに強いのは確かだ。しかし巨大地震の際にはトンネルを掘った地形自体が変形する。南アルプスで20㌔を超えるトンネルが無事で済む保証はない。大きな損傷はあり得るとしか言いようがない。

避難の方法なし

この中を緊急停止ができない時速500㌔の列車が走るのだ。停電などで超電導磁石が効力を失った場合や通信途絶で電力回生ブレーキが使用不能となり車両単独でブレーキをかけるには空力ブレーキや車輪ディスクブレーキで止めるしかなく約90秒(約6㌔)かかる。

初期の段階で実験車両が走行中に出火し全焼したこともあるが、2019年10月にもアーク放電による火災事故で3人が重軽傷を負った。リニア車両は可燃材料を極小化していると言っても想定外の理由で火災が発生することは排除できない。コイルやタイヤなど発火源はいくらでもある。

時速500㌔の鉄道が地下トンネルの中で事故を起こしたときに、1000人を超える乗客と乗務員の生命はどうなるのか。事故からの避難対策はない。JR東海の「東海道新幹線は死亡事故が一度も起きていないから大丈夫」は説明にならない。

消費電力も重大だ。JR東海が公表している環境影響評価書によれば、リニア中央新幹線の消費電力は新幹線の4倍を超える。さらに電磁波や振動、騒音など問題はたくさんある。微気圧波といって、列車が高速でトンネルに進入する時に空気が圧縮され反対側の出口から圧力波が放射される現象もある。

乗客も増えない

トンネル内を時速500㌔で走る列車に爆発物や凶器が持ち込まれた場合の対処として航空機並みの乗客のボディチェックと手荷物検査が実施されることが予想され、地中深いホームまでの移動時間や検査時間などを考慮すると時間短縮効果はあまりないとも指摘されている。

そもそも乗客が増える見通しがない。JR東海の乗客数の試算は明らかに過大だ。人口減少も進み、東海道新幹線とリニア新幹線の両者で乗客が分散するだけなのでJR東海の乗客数・売り上げはさほど増えない。さらにコロナ以後の〈移動からリモートへの変化〉で需要が大きく回復する見込みはない。

計画については住民や地元自治体など反対も大きい。認可取消訴訟や工事差止訴訟も行われてきた。地元自治体では、特に静岡県知事が「南アルプスのトンネル工事は水資源や自然環境への深刻な影響を与える恐れがある」として、大井川の流量減少について全量を大井川に戻すことを要求し、工事が進まない状況となっている。静岡県を走るルートはわずか11㌔だが、この部分の工事が終わらなければリニアは開通しない。

葛西・安倍の破綻

品川―名古屋間の工事費はすでに1・5兆円も増えて7兆400億円になっている。静岡工区が未着工のため開業延期は不可避となったことを受け、JR東海の金子社長は「計画通り進められていないことに責任を感じる」と述べざるを得ない状況なのだ。

安倍と葛西の共同プロジェクトと呼ばれたリニア中央新幹線はもはや開業自体が疑問視される状況だ。成長戦略として国策に位置づけられたリニア・新幹線の海外輸出も頓挫した。それどころかJR東海の倒産という最悪のシナリオまで公然とささやかれる状況なのだ。

「国鉄闘争全国運動」さんからの投稿です

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