久留里線「収支率最低」と学校統廃合―JR東日本が路線・線区別の収支公表

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乗客減少は「自然に起こった」ことではない

7月28日、JR東日本は初めて路線別、線区別の収支を公表しました。公表の対象は「輸送密度2千人未満」です。中でも久留里線の久留里-上総亀山間は、運営費に対する鉄道収入の割合を示す収支率が最も低いと大きく報道されています。

路線区間輸送密度
(20年度)
赤字額
(20年度)
外房線勝浦―安房鴨川1017人12億8300万円
内房線館山―安房鴨川1245人14億3500万円
久留里線木更津―久留里1023人8億200万円
久留里―上総亀山62人2億7400万円
収支が公表された千葉県内の路線(鹿島線除く)

しかし、この宣伝はあまりに悪意に満ちています。なぜ、久留里―上総亀山間だけをとり出して「日本最悪」などと宣伝しなければならないのでしょうか。

そもそも久留里線の列車を削減し、どんどん利用しにくくしてきたのはJR東日本です。久留里―上総亀山間は日中帯に5時間も列車が来ないのです。久留里線全体も早朝・深夜の列車を廃止し、東京方面への通勤ができなくなりました。そのために引っ越さざるを得なくなった乗客の怒りの声も聞いてきました。「利用状況に合わせる」などといって列車本数を減らせば、乗客が減るのは当然です。

ある地域の住民は、「かつては雪で道路が止まるから、みんな電車に乗っていた。最近は先に電車が止まるので、みんな車に乗っている」と話しています。〝赤字だから減便したほうが儲かる〟〝除雪して走らせても赤字だから止めてしまおう〟――乗客の減少も自然に起こったわけではありません。

公共交通機関である鉄道を民営化して「利益」を基準にしたことの失敗が明らかになっています。「赤字だから」「民間企業なのだから」と列車削減―廃線が進められれば、生活も観光も壊されてしまいます。

鉄道の廃線化と学校統廃合

国交省の地方ローカル線に関する検討会の提言では、「ピーク時の1時間当たりの輸送人員500人未満」の路線は検討の対象から外すとされています。想定されているのは主には通勤や通学、とくに沿線に学校がある場合だと考えられます。

しかし、この間の学校統廃合の動きを見ると、「廃線」と「廃校」がセットで進められる可能性が高いです。2002~20年度の19年間に何と8580校、1年あたり450校以上もの公立の小中高校等が廃校されているのです。

小学校中学校高校等合計
5678校1721校1181校8580校
公立学校の廃校発生数(2002~2020年)

久留里線沿線では、4校の小学校が1校に集約されたり、3校の中学校が1校に集約されたりして、現状ですら子供たちが学校に通うことが困難になっています。地方自治体がスクールバスを出して長時間かけて子供たちを拾って学校に降ろしていくことでかろうじてなりたっているが現状です。

「生徒数減少」を理由に統廃合してはならない

8月8日には千葉県教育委員会が「県立高校改革推進プラン」「第1時実施プログラム(案)」に関する県民説明会を袖ケ浦市で開催しました。説明会には動労千葉を支援する会の会員も参加しました。

千葉県教育委員会は、「10年後には中学校卒業者が6200人減少する」「適正規模に満たない学校の将来の維持が困難」「10組程度の統合を見込んでいる」「適正規模に満たない学校は統合の対象」と生徒の数によって学校の統廃合を進める方針を明らかにしました。

千葉県教育委員会のいう「適正規模」とは、都市部では1校当たりの適正規模を原則1学年6~8学級、郡部では1校当たりの適正規模を原則1学年4~8学級というものです。この基準を下回るだけで統廃合の対象にするなど、あまりに理不尽です。

説明会では、とくに学校現場で働く教員から怒りの声が次々に上がりました。

  • 「学校は水道・電気と同じインフラだ」
  • 「学校が減ることは地域の衰退だ」
  • 「市原市の桜ヶ丘高校の閉鎖で町が寂れた」
  • 「(21年度から閉校・君津高校へ統合が始まった)上総高校の場合は、すでに決まったこととして強行された。現場は聞いていない。説明は30分だった」
  • 「人口減少を理由にするな」
  • 「6200人減少とは11.8%減だ。30人学級にすれば統合する必要はない」
  • 「少人数のほうがきめ細かい教育が可能だ」

千葉県教育委員会も「教育課程の柔軟な編成や活力ある教育活動が展開できるように、適正規模の最適化を図る」としています。曲がりなりにも「教育のために規模を適正にする」と言っているのです。しかし、その主眼はあくまで「学校数の削減=廃校」であり、規模が大きすぎる学校の問題を解決しようということではありません。

「教育」の観点から言うなら、大規模校の問題は多数指摘されていますが、「これより少ない人数では教育上問題がある」という基準は存在しません。むしろ、小規模校の教育上の利点は多く示されています。

教育の〝市物化〟と〝私物化〟

この点で、非常に参考になる記事がありましたので紹介します。東京都立大学の山下祐介教授の「マネー現代」での連載です。

この記事から8月12日時点で5回にわたり、福山市が進める小学校の統廃合について連載されています。(過去には現代ビジネスで20年7月10日から3回にわたり同じテーマの連載がされています)

連載では、福島市のあまりにひどいやり方が明らかにされています。福島市も額面上は「教育のための統廃合」としていますが、住民の意思や状況を無視して一方的に決定を押し付けています。「合意に努める」といいつつスケジュールありきで、「反対する住民に問題がある」かのようにいう様は悪らつです。

果ては、公教育であることや「教育のための統廃合」という建前も捨てて、「人口減少で小規模校に回すお金はない」「税収が落ち込んで学校数を維持できない」「小規模校に回す教員がいない」という論理まで飛び出してきます。市長自らが、「人口減少は地域の魅力がないからだ」「学校の統廃合とは別に考える」と都合の悪い問題を切り離し、責任を住民に転嫁しています。それに教育委員会も追随していきました。行政暴力によって教育が破壊されていく様子と、住民の怒りや苦悩が感じられます。

また、この統廃合が「イエナプラン教育」という特色を持った学校の新設とセットである点も注目すべき点です。山下教授は、「〝統廃合+オルタナティブ校新設〟という手法が、学校のスクラップ・アンド・ビルドに伴う新たな利権的公共事業として広がるのではないか」と懸念を示しています。

なぜ、市民である地域の住民や子どもたちが存続を望む学校を廃止し、新しい学校を作って市外生徒を募集するのか。教育の〝市物化〟が進められ、「市が思うやり方に迎合し、協力する地域や市民は支えよう。しかし逆らうものからはその大事なインフラを何が何でも奪ってしまおう。もしそれで地域が衰退しても、それは〝地域に魅力がないからだ〟」という考えがあるのではないかと指摘されています。そして、この〝市物化〟は容易に「私物化」につながると警告されています。

学校も鉄道も、地域にとってなくてはならない「インフラ」です。公共交通も公共教育も、民営化=私物化で金儲けの道具にしてはなりません。今後も廃線化、学校統廃合に反対していきます。

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