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久留里線ルポ 採算取れず廃線へ 千葉・君津の鉄路 失われる地域の宝

 房総半島の内陸部を走るJR久留里線の一部区間、千葉県君津市の久留里―上総亀山(9.6キロ)の廃止が確定的になった。災害復旧を断念したケースを除けば、JR東日本が廃線に踏み出すのは1987年の国鉄分割・民営化以来初めて。かつて文明の象徴だった鉄路は、人口減とともに消えゆく運命なのか。ローカル線に揺られながら思いを巡らせた。

特集ワイド:久留里線ルポ 採算取れず廃線へ 千葉・君津の鉄路 失われる地域の宝 | 毎日新聞
房総半島の内陸部を走るJR久留里線の一部区間、千葉県君津市の久留里―上総亀山(9.6キロ)の廃止が確定的になった。災害復旧を断念したケースを除けば、JR東日本が廃線に踏み出すのは1987年の国鉄分割・民営化以来初めて。かつて文明の象徴だった鉄路は、人口減とともに消えゆく運命なのか。ローカル線に揺ら

失われる地域の宝

 3月末の平日の昼下がり。木更津駅の4番線ホームに白い煙を吐きながらディーゼル列車が入ってきた。終点・上総亀山まで行く直通列車は1日5本しかない。入線したのは途中の久留里行き。部活帰りの高校生、買い物バッグを持ったお年寄り、スペイン語を話す外国人の男女、カメラを携えた鉄道ファン、そして私。2両編成に総勢30人ほどが乗り込んだ。1人あたりのスペースが広い。

 時刻表には次の列車まで5時間半も空白の時間帯がある。東京には12本もの線路が並行する複線が存在する。戦後の「国土の均衡ある発展」なるスローガンは何だったのだろう。「地方創生」を看板製作に掲げる政権があったような、なかったような…。

 久留里で後続列車を1時間近く待つ。木更津から同じ列車に乗ってきた男子高校生が1人で駅前に立ち続けている。「デマンドタクシーを待っているんです」。事前に予約しておけば君津市内の沿線どこでも1回500円で行けるという。相乗りが原則だが、約10分後、到着した「きみぴょん号」の乗客は彼だけだった。

 久留里線は1912年に木更津ー久留里の区間で開業した。36年に上総亀山まで延伸。さらに延びて太平洋側につながるはずだったが実現しなかった。それでも沿線住民の足となり、自然豊かな房総エリアに多くの観光客を運んできた。

 だが、JR東日本は2024年11月、この延伸部分を廃止すると表明した。

乗客が激減し、100円の運賃収入を得るのに1万3580円かかるという。

 「JR全路線の『完乗』を目指す鉄道ファンは今も多い。ローカル線がどんどん廃止され、結果的に達成してしまったら寂しいですね」。そう話すのは、鉄道カメラマンの金井昌行さんだ。「明治時代から150年かけて全国に線路を張り巡らせたとき、もうかるかどうかが第一ではなかったはずです」。鉄道によって人の流れがスムーズになり、物資の流通も円滑になった。金井さんは「国営の国鉄だからこそ、首都圏での利益によってローカル線を維持できていた面もあります」と強調する。仮にバスに転換しても本数が極端に減ればライフラインとして機能しなくなるという。

(上総上山駅の近くの民家に張られていた絵)

(久留里駅前にある水くみ場)

 沿線住民でつくる「久留里線と地域を守る会」(三浦久吉代表)は昨年末、廃線を受け入れないよう君津市に申し入れた。JR東は会社全体の運輸事業が大幅な黒字なのに赤字路線の収支だけを誇大宣伝しているーという不信感が背景にある。無人駅の駅舎清掃や草刈りボランティアをしてきた三浦さんらは「鉄道は上総地域にとって欠かせない公共交通」と主張し、市議会に存続の陳情を出した。が、3月に賛成少数で不採択となった。

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